BSマンガ夜話 ハロルド作石「BECK」

今回はゲストが頑張っていた。東野幸治、喋る喋る。ただ喋るだけでなく、膨大にマンガを読み込んでいる上での喋りだから、面白い。だが、忘れてはならないのはチャコールフィルター大塚雄三だ。自分の意見を絶対言いたい&なかなか意見を曲げない、という性格の子なので、マンガ夜話的には「鬱陶しいキャラ」的な位置づけをされてしまいそうになるのだが、いやいやなかなかどうして、非常に鋭い指摘をたくさんしていたと思う。「BECK」=「レッドホットチリペッパーズ」という指摘はなかなか面白かったし、(姿勢をまっすぐ伸ばして、マイクから口を話、手を後ろに組んで歌う姿勢はオアシスのリアムに確かに似てはいるが)コユキの声がキーの高い綺麗な声であるという指摘は正しいと思う。また、最近の失調も「エンタテイメントとして考えたら確かに失調かもしれないけれど、ロック漫画としては逆にリアル」という意見は私的には非常に納得のゆくものであった。まぁ、でもいしかわじゅん氏の言うとおり、失調は失調で事実なのだろうなぁ。「中ボスが弱い」という岡田斗司夫の指摘から、失調の要因が明示されてしまったし。

ハロルド作石が意図的にバンドをジレンマに陥らせているのではないのだろう。作家本人が次の方向性を迷っている結果として「BECK」という漫画、及び漫画内の登場人物たちがジレンマに陥っている、ということなのだと思う。ただ、それが結果として大塚雄三の述べるように「ロック漫画としてのリアリティ」を獲得している、というのは穿ちすぎであろうか。だとすれば、作者と登場人物たちのシンクロ度は極めて高い、ということになる。「ロック」というのは「虚構のようで、実は虚構ではない。だが、私小説ほど、現実そのものを描いているものではない。その中間を行くものである」と考えるのならば、ハロルド作石が「エンタテイメント漫画」を経て「ロック漫画」へ移行しつつある過渡期にいること、また、登場人物たちの失調とハロルド作石の不調がシンクロしていることの両方の説明となることができ、なかなか面白い仮説が立てられることとなるだろう。