鉄人28号 第24話「生きていた敷島」

あな恥ずかしや。前回の感想で「敷島氏=ニコポンスキーとは誰が見ても明らか」と言い、それどころか「気付かない人がいるのだろうか?」とまで言い切ってしまった。制作者のミスリードに完全に引っかかってしまった。まさか「敷島氏=クロロホルム」であったとは。全く気付かなかった。完全に騙されてしまった。いや、参りました。そして、お見事でした。

演出・脚本共に、非常に見応えのある回であった。絵コンテが非常によく練られている。一つ一つのシーンに大きな意図が隠されており、最後のオチを聞かされた後で、「ハッ、そういうことだったのか!」とそれまでの演出意図全てが紐解かれていく。敷島博士(ニセ)が高見沢秘書を「ありがとう、高見沢君」と呼んだ直後に唐突に別のシーンに移るところ(流れとしては不自然なため、逆に視聴者の印象を深くする効果がある)も、舌を巻くような驚くべき見事な演出であった。また、夜中、クロロホルムが正太郎君をジッと見つめているところ場面も、素晴らしい。観た瞬間では、クロロホルムという人物の『底知れ無さ』を視聴者に感じさせ、場合によっては敵側に移るかもしれないという疑心さえ視聴者の心に持たせることとなる。だが、オチが分かった後で観ると、クロロホルム(本当は敷島博士)が正太郎君や息子のことを気遣って見つめていたことが分かる。一つの場面にダブルミーニングを持たせるというのは、犯罪ものの映画でたまに観られる演出のテクニックであるが、ここまでさり気なく完璧な演出を目にすることができたのは、私としては本当に久しぶりの事である。

鉄人を「兵器」として用いることに対する正太郎君の拒否反応も、今回の話では非常に分かりやすかった。
「目的達成のためなら多少の犠牲は止むを得まい」
と発言する敷島博士(ニセ)はファイア団と何ら変わらないように見える。大人の「論理」に対して、正太郎君があくまで子供らしく「感情的に」拒否を示したのも良かった。その後、敷島博士(ニセ)が大人らしく全責任を背負おうと言って、正太郎君からリモコンを奪おうとする下りも、制作者のテーマが明確に伝わる、良いシーンであった。本作品では、「責任を背負う云々」という用語では「大人」「子供」を区別した事にはならない。そうではなく、「本当は悪い事をいろいろと言い訳をつけて行動してしまう大人」と「本能的に悪い事を知っていて、それを拒否する真っ直ぐさを保っている子供」という、二項対立になっているのである。ファイアⅢ号の外装を剥がすために次々と爆発されるロボットを見て正太郎君が唖然とする場面、その後に敷島博士が詭弁を駆使して鉄人のリモコンを奪おうとする場面では、以上の作品の基本方針がこれまでで最も明確に示されていたように思う。名場面と言っていいと思う。

惜しむらくは、前回の裁判の話でこういった基本方針を明確にした演出があれば良かったのだが。今川監督御大がコンテを切った、テンションの高い演出ではあったのだけれども。

ラストになっていよいよ盛り上がってきた。面白かったり、ヘンな話だったりと、ずいぶん凸凹な印象のある「鉄人28号」であるけれど、ひょっとしたら本作品の真価はまとめて一気に観て初めて分かるものなのかもしれないなー。