双恋 第12話「バレンタイン・パニック」

各地で評判だったので、慌てて初視聴。評判どおりの修羅場に次ぐ修羅場展開で満足いたしました。

「天地無用」に代表される「ハーレム・ラブコメ」で表現されるものは、「恋愛物語」ではなく「疑似家族的共同体」であると思う。「主役が複数の女の子にモテモテ状態」とは、すなわち主人公(=父親)を中心とする、女の子たち(=子供)との理想的共同体を指すものであり、だからこそ「ハーレム・ラブコメ」では複数の女の子と関係性を続けながらも、みんなが仲良い状態というのを続けていくことができるのだ。「痴話ゲンカ」は深刻なものにならず、せいぜいガキ同士の喧嘩レベルにとどまるものなのだ。

だが、当たり前であるものの、現実の恋愛ではこういった関係性は起こり得ない。「ハーレム・ラブコメ」が「1対多」の関係性であるのに対し、恋愛とは「1対1」の関係性でしか起こり得ないからである。

現在のオタ文化では、「恋愛もの」のスタイルとして、大きく分けて3つが挙げられる。1つは「純愛もの」。と言えば聞こえが良いが、その根底にあるものは「俺がお前を好きで、お前が俺を好きならば、他の何者をも犠牲にしても、破壊しても構わない」という非常にエゴイスティックで破滅的な意識のあり方である。(作品の代表例として、「最終兵器彼女」、「恋風」、また「ちょびっツ」などが挙げられるであろう)

2つ目に、上記に挙げた「疑似家族的共同体」としての「ハーレム・ラブコメ」が挙げられる。当然、「ハーレム・ラブコメ」が志向するのは「誰もが仲良く、ハッピーな空間」ということとなる。(代表例としては、「天地無用シリーズ」、「藍より青し」がある)

そして3つ目に挙げられる話が、これまでど真ん中の「ハーレム・ラブコメ」を続けてきた「双恋」の、第12話であったと思う。

先に述べたように「ハーレム・ラブコメ」で描かれる暖かい共同体は、キャラクターが「現実の恋愛」に踏み出そうとする場合に、絶対に越えていかなければならない障壁として立ちはだかることとなる。これまでの「ハーレム・ラブコメ」では、キャラクターがそこへ踏み込んでいくことはなかったし、踏み込んでいったとしても、またすぐにもとの暖かい共同体を維持していく展開になっていた。

今回、「双恋」では各キャラクターがこれまでの暖かい関係性にグッと踏み込んでいく形となった。一条姉妹はお互いに本音を爆発させ、桜月姉妹は主人公に決断を迫っていた。つまり、ごく普通の一般的定義としての「恋愛もの」にあるような修羅場が展開される形となっていた。

だがそれでも、本作品には一般的な「恋愛もの」ではあり得ないような箇所がいくつも散見される。まず、桜月姉妹が意中の人物が同じ人であるのをお互いに認識していながら、それでも喧嘩1つもせず仲良く望ちゃんのためにチョコレートを作っていたりするところだ。しかも、チョコレートを渡すときも二人一緒なのである。一条姉妹は彼らと比較すれば精神的に大人で、お互いのことを恋敵であるとはっきりと認識している。だが、菫子が薫子に対して、一緒に望ちゃんにチョコを渡そうと言う下りには、桜月姉妹同様の姉妹同士の絆の強さを感じさせる。

それぞれが望ちゃんとの1対1の関係性を強く望んでいながら、だからと言って「姉妹同士」の関係性を絶対に疎かにすることはない。言い換えれば、「恋人関係へと進展したい」と思いながらも、同時に「家族関係をきちんと維持したい」と考えているのだ。

ここで私が思いだしたのが「おねがいツインズ」である。ちょっと長ったらしくなるけれど、「おねツイ」のストーリーを説明すると「1人の男の子のもとへ、自分の妹かもしれない女の子が2人やって来る。だが、人生の大半を孤児院で過ごした男の子の過去を示す写真には妹の姿が『1人』しか映っていなかった。男女3人は、『兄妹関係』か『恋人関係』になるかのどちらかで、それぞれ揺れ動いていくことになる」となる。つまり、「家族関係と恋人関係の間で揺れ動きながら、各キャラクターが何とかして着地点を見つけていこうとする話」となる。

普通の恋愛ものに慣れている人が奇妙に感じるかも知れないのは、こういった部分であるだろう。「家族関係」と「恋愛関係」は、本来、全く別ものであるからだ。だが、アニメーションの文脈においては、「ハーレム・ラブコメ」からの発展形として、こういった形は非常によく理解される。「ハーレム・ラブコメ」的ユートピア性を維持しながら、現実に即した「恋愛物語」を展開させるということは、爛熟期を迎えた現在のアニメーションが必ずぶち当たるはずの命題なのである。

双恋」第12話はかかる命題に真っ正面から取り組んだ意欲作である。必ずしも成功しているとは言い難い面もあるが、私には充分に面白かった。少なくとも、(これはアニメに限ったことではないが)純愛に回帰してしまうよりは、ずっと時代に即した物語を語ろうとする意志が感じられた。

ところで、公式hpの声優インタビューが面白い。

http://www.starchild.co.jp/special/hutakoi/tel/special.html

作品中では激モテであった望ちゃんが、リアル世界では総スカン喰らっているのが面白い。まぁ、そりゃあそうだよなぁ。「全員に優しい」人が好きな女の子って少ないと思うよ。(普通は「私には特別優しい」って人が好きだと思う)でも、アニメ文脈においては、この「全員に優しい」ことと「優柔不断さ」というのは、外せないポイントなんだよね。

「ハーレム・ラブコメ」における主人公像が、女性の理想と最も離れた位置にあるというのが、オタが抱える根元的不幸である気もするが、ま、それはまた別の話で。