新選組! 第29回「長州を討て」

新選組にはハナっから主体性も思想性もなかったのだ。芹沢鴨はそのことを痛いほど自覚していたからこそ、新選組という名前を笠に悪徳三昧を繰り返し、また、そのことで内心深く悩んでもいたのだろう。また同時に、芹沢がそれを強く自覚していたからこそ、新選組は内部分裂をせずに済んでいた、とも言える。芹沢は敢えて悪役を演じ、隊内の者たち(特に試衛館出身の者たち)に自分に眼を向けさせることで、結束力を固めていた。そうしなければ、元々は出身も思想もバラバラである浪士たちを一つにまとめることができなかったのである。

と、いうのはさすがに穿ちすぎであるとしても、芹沢鴨が結果的に新選組を団結させる役割をしていたということは、やはり認めなければならない事実であると考えてよいだろう。「裏まとめ役」であった芹沢鴨を失った今、新選組は徐々に崩壊の時を迎えつつあり、三谷幸喜はそれを描こうとしているのだ、と理解してみれば、前回まで持っていた不満も少しずつ解消されていった。

近藤勇も、土方歳三も、自分が何をしているかはっきりと分かっていない。近藤勇は「ご公儀のため」と無理に自分を納得させているが、その反面、本来は自分たちの朋友たるべき長州軍を討つことに疑問を感じている。また、土方は新選組の勢力を伸ばすことに夢中になっていて、本来の新選組結成の目的・新選組の進むべき方向性が全く見えなくなっている。つまり、新選組の両リーダーである二人は混沌の最中にいるのである。その姿は、長州の久坂玄端たちがヤケになって御所に攻め込もうとしている姿にダブって映る。

新選組!」後半は、新選組が崩壊へと進んでいく過程を描いていく作品になっていくようである。だとしたら、これは前半以上に期待を持てる作品になるかもしれない。これまで不調であったのは、この「崩壊劇」のための下準備であったと考えたら合点もゆく。

そういう意味で、ラスト近くの孝明天皇のセリフ「余は彼ら(長州軍)が何を考えていたのか分からぬのだ」とは象徴的なセリフであったなぁ、と感じる。

しかし「新選組!」は相変わらず、殺陣の場面が弱い。佐久間象山殺害のシーンも見事にヘコかった。また、新選組の殺陣の場面も非常に弱々しかった。余りにもゆっくり、丁寧に殺陣をしてくれるものだから、観客側から段取りを踏んでいることが丸分かりなのだ。
そういうヘボい殺陣シーン&合戦シーンが中心なものだから、今回もやっぱり少し不調気味ではあった。
後、寺田屋で鼻血ネタを二度出したのはどうかなぁ。「おみつさん」と「お登勢」が同じネタを踏んでいる、っていう脚本意図なのかもしれないのだけれど。それを踏まえたとしても、あまり上手い場面とは言えないかなぁ。

まぁ、今回も不調気味ではあるが、少しずつ調子が戻ってきてはいる。次回はいよいよじっくりと時間をかけて描かれていた組織内部の不和が「永倉新八、脱退表明」という形で具現化されることとなる。うーん、次回から人間ドラマに話が戻るので、そろそろ期待をかけてもよさそうである。