マリア様がみてる 第2話「胸騒ぎの連弾」

槇村さとるの「おいしい関係」を読んでいて、思わずハッとさせられることがあった。主人公の百恵ちゃんが体重計に乗る場面だ。体重を表すデジタル表示の棒が一本抜けているため、百恵ちゃんの実際の体重が分からなくなっている。見方によっては「47キロ」にも見えるし、「57キロ」にも見える。もしかしたら「67キロ」かもしれない。とにかく、この漫画では百恵ちゃんを女の子として扱っていて、「失礼だから」という理由で女の子の体重をはっきり示していないのである。
もう一つ、こういう考え方もできる。つまり、百恵ちゃんは「47キロ」から「67キロ」までの体重を持っている、それだけ読者が自由に解釈が可能なキャラクターとして設定されているということだ。そうすることで、あらゆる読者が主人公の百恵ちゃんに感情移入しやすくしているのである。
漫画では勿論、百恵ちゃんは美人で魅力的に描かれてある。しかし、それは「漫画の画」として魅力的に描いているのであって、実際の設定としては、百恵ちゃんが美人であるとか、モデル体型であるとか、そういったことは一切触れられていない。この漫画にとって大事なのは、元気で、おっちょこちょいで、人なつっこい、そして何があってもメゲない百恵ちゃんの性格である。この性格設定によって、多くの人が百恵ちゃんに自分自身の姿を重ね、まるで自分が主人公の気持ちになって物語を追っていくのだ。

私はこの場面を見て、少女漫画の「キモ」を見たような気がした。すなわち、「少女漫画の主人公は、その姿を見て読者が『自分自身のことを描いてる』と思って貰えるような性格設定にしてある。(だから、体型や容姿について細かく触れることもない。それでも、漫画の画としては最も美しく描かれている)」ということだ。
「そんなこと当たり前じゃん」と思われるかもしれない。私自身も、もちろん漠然とはその事実を知っていた。しかし、ここまではっきりとその事実を自覚することはなかった。私にとっては、今まで少女漫画の何を読んできたのだろう、と思うくらいに衝撃的なことであったのだ。

マリア様がみてる」第2話を見て、そのことを思い出した。アニメではツイン・テールの萌えキャラとして描かれている祐巳であるが、実際は「性格美人」であって、容姿自体は地味そのものなのではなかろうか。
この事を踏まえて観ていかないと、野郎には少女たちが何故あれだけ夢中になるか、(なーんとなく分かったようなことは言えても)はっきりとはその理由を掴めることはできないと思う。

たかが連弾で、「胸騒ぎ」などというトゥー・マッチな単語を持ち出すのは、実はトゥー・マッチでも何でもなく、地味な祐巳にとっては文字通り「胸騒ぎ」であったのだろう。