映画「インファナル・アフェア」

よく練り込まれた脚本といい、魅力溢れる役者陣の演技といい、テンポのよい演出といい、悪いところを探すのが難しいくらいの、ほぼ完璧な香港発娯楽大作。

冒頭、ラウ刑事@アンディ・ラウがマフィア子分のもとに弁護士を装って近付き、仲間の携帯に電話をかけさせる手口の描写が実にお見事。マフィアの味方のフリをして、ボスの名前を口にして相手を安心させ、仲間に「逃げろ」と連絡させるために携帯の電話口に聞こえるように「あっちへ行け!失せやがれ!」と叫ばせる。(警察の監視カメラからは、マフィア子分がラウに対して「失せろ」と言っているように見える)で、ちゃっかりマフィア仲間の携帯番号をgetして、相手の位置を特定する。ラウ刑事は仲間から喝采を受ける。ところがこのラウ刑事、実はラウ刑事は警察に潜入しているマフィアであり、警察の端末から早速親分に対して内部情報を告発する。ところが、マフィア内部にも、警察からの潜入者=ヤン@トニー・レオンがいて………と、実に入り組んだ、緊迫したストーリーが展開する。それぞれの内部スパイによる情報戦を軸に展開される警察とマフィアとの攻防戦は、息が詰まるほど迫力満点で、一瞬とも目が離せない。それから、ズルズルと本作の類を見ない面白さに夢中になってしまった。全く期待していなかっただけに、これは実に大きな収穫であった。

とにかく、脚本のレベルの高さに度肝を抜かされる。潜入捜査官or警察に潜入したマフィアという、二人を主人公にするという特殊な物語だけに、相当に高い構成力や、緻密な設定が要求されると思う。本作品はそれに完璧に応えている。そればかりか、大河ドラマ的なスケールの大きさや、王道のメロドラマ性までをも獲得している。
特に私が感心したのは次のシーンである。ヤン刑事が昔の別れた彼女とバッタリ会った時に、彼女が連れていた子供の年齢を聞く。娘は6歳だと、彼女は言う。ヤンと別れた後、娘は彼女に「間違えちゃダメだよ。私、5歳だよ」と言う。
それ以上の説明はないが、その1シーンだけで視聴者は彼らの事情をはっきりと分かることができる。この女の子は、ヤンと彼女との娘なのであり、しかしそれをヤンは知らないままなのである。彼女はヤンにそれを知られまいとして、娘の年齢を咄嗟に偽ったのである。
警察vsマフィアとのリアルな攻防戦の描写も見事であるが、こういった繊細な心理描写も実に上手い。必要最低限の情報だけで、観客に彼ら二人の過去にいろいろとあった事を想像させるのに成功している。

だからこそ、後半の各キャラクターの心理描写を少し急ぎすぎたのが残念なんだよなー。ドクターがヤン刑事にいつ惚れたのか、ラウ刑事がいつ改心して「善」の道に進むことに決めたのか、というのがイマイチはっきりとしないんだよなぁ。そこらへん、もう少し明確に描く必要があったのではないか。完成度が高い作品だけに、この欠点が非常に悔やまれる。

実は本作品は三部作となっているとの事。本作品は最初の作品ではあるものの、年代的には真ん中にあたるものである。で、近々公開される「インファナル・アフェア 無間序曲」は本作品の序章にあたる作品らしい。
本作品がアクションや警察vsマフィアの攻防戦をメインに据えた作品であるのに対して、「無間序曲」は大河ドラマ的なドラマ性を重視した作品であるようだ。だから、ドラマ的な部分に関しての最終的な結論は、「無間序曲」を観るまで待つべきなのかもしれない。

本作品は役者もいいんだよね。主役の二人とも、スゴくいい。アンディ・ラウは野性味溢れる存在感を示してくれたし、トニー・レオンは陰を持った男の色気を堪能させてくれた。(日本で、トニー・レオンのように陰を持った色気のある役者は、オダギリ・ジョーの登場までほとんど存在しなかったように思う)また、警部役のアンソニー・ウォンや、ボス役のエリック・ツォンも非常にいい味を出している。
その分、女性陣はただ顔の綺麗さばかりが目立って、存在感をイマイチ示すことができなかったように思う。ヤン刑事が惚れるドクターと、ラウ刑事のフィアンセって、公式ホームページを見るまで、私は同一人物だとばかり思っていたし。
でも、これはどちらかと言うと私の鑑識眼の薄さが問題なのだろうけれど。ケリー・チャンとサミー・チェンの見分けがつかないなんて、香港映画ファンに殺されてしまうよな。まぁ、私はジョージア3人娘の区別がつかないような男だからなぁ。そんなに女性(3次元)に興味がないのだろうか、私は。その割には、男の役者には関心もあり、よく知ってもいるのだけれど。