今日からマ王! 第35話「雪降る大地」[anime]

いかにも腐女子受けの単なるハーレムアニメ(ただし女の子ではなく男の子の)だと思われている向きもある本作品だが、どうしてなかなか、堂に入った骨太な人物描写や大河ドラマをじっくりと進めていく語り口の上手さから判断しても、決して単なる「腐女子向け」におさまるスケールの作品ではない。少なくとも、「デス種」よりはよっぽど人物描写がしっかりしているし、群像大河ドラマとしても成功している。

今日からマ王!」のよいところは、キャラ一人一人が世界の中における自分の立ち位置をきちんと考え、その上で自分がどう行動すべきか判断しているところにある。フリンたちがピンチの時にえげつないコスプレで登場し、鞭を振りまくってマキシーンを退治するツェリの姿を見ると、まるで自由奔放好き放題に動いているように見えるが、敵方の倉庫に忍び込もうという段階でははしゃいで後についていくという愚はせずに、そっと身を引く。そして「フリンと2人で話し合う」という自分の役目をきちんと完遂するのだ。
「危険な仕事は殿方に任せ、私たちはここで少しおしゃべりしていましょう」
敵方の倉庫に忍び込むのは自分の愛人に任せる。そして、自分は、おそらく自分でしかできない「自分の過去の身の上話をし、フリンを諭す」という行動をとる。ハデに動きまくって、作品内でも最も目立ったキャラであるツェリであるが、実はこうした理性を最も多分に備えているキャラクターであるというのはなかなか興味深い。

主人公のユーリも、「自分が良いと思ったことは、とことんやらなければ気が済まない」という性格といい、実際にそうしてしまう行動力といい、某「種」の某「キラ君」と性格はほぼ同じと見ていい。しかし、キラが自分のしていること(だけ)が正しく、周りはバカで間違っていると思い上がっているのに対し、ユーリは決してそういう思い上がりはしない。自分が剣技においては相手に絶対に叶わないと知りつつ、自分の無鉄砲な性格で周囲の人間に迷惑をかけていて申し訳ないと思いつつ、その上でもやはり、相手に剣技で立ち向かおうとするのだ。「自覚的なバカ」なのである。

「自覚的なバカ」と「無自覚なバカ」は全然違う。「無自覚なバカ」は後々どうなるかということを考えすらしない。「自覚的なバカ」は、後々どうなってしまうかというのを、きちんと真剣に考え、その重さを受け止めることができる。だから、責任を引き受けるのを覚悟した上で、慎重に、しかし大胆に行動をとることができる。天然ボケで、真っすぐなだけが取り柄のユーリがどうしてここまで部下から王として慕われるかと言えば、それは彼がきちんと自分の立場を把握しており、自分の取る行動に重みを感じ取ることができる人間だからである。だから、今回の武道会でのバトルもでも、コンラッドに涙ながらに向かっていくユーリに部下(そして観客)は自然に感情移入して、彼を応援してあげたい気分になるのである。

勿論、コンラッドの置かれた立場を考えると、彼が敵国側についたことを責めることができないのも、観客はきちんと判断することができる。コンラッドもまた、自分の置かれた立場をきちんと把握し、その上で自分の行動を決定できる「独立した個人」としてキャラが描かれているからだ。

こうしたキャラ設定は当たり前と言えば当たり前だが、実は「今日から〜」のように徹底して各キャラに独立性が与えられている作品は現在では非常に少なくなってしまっているのではないかと思われる。ただ、テンポの良いギャグや、「萌え」だけがアニメの良さではないはずだ。本作品では、きちんと「生きた」キャラクターを描くことのできる、近年では稀な良作である。しかも、テンポの良いギャグや、「萌え」までもしっかりと押さえている。実は、最強作品かもしれない。