マップス 長谷川裕一 / マップス外伝1・2 長谷川裕一[manga]

マップス (1) (MF文庫)

マップス (1) (MF文庫)

マップス 外伝1 (ノーラコミックス)

マップス 外伝1 (ノーラコミックス)

読み始めの段階では、あまりの絵のヘタレ加減と、ベッタベタな80年代テイスト満載な作風に辟易してしまっていたので、最後まで読み通せるかかなりアヤシかったです。

最初はバカなスペオペものだと思っていたが、その中にも高度なSF理論が内包されているのが分かってきて、感心させられた。宇宙も、そこに存在する生命も、所詮はデータであり、永遠に繰り返すことを義務づけられたプログラムに過ぎない、という発想は非常にSF的であり、また「マトリックス三部作」的でもある。「伝説のヒーロー」が全宇宙を救うために救世主として立ち上がる、っていう下りも「マトリックス」に通ずるところがある。だけど、「一人一人の頑張りがプログラムを少しずつ狂わせることができる→人間=生きている存在であり、決してデータやプログラムといった言葉で括られるものではない」とテーマを展開し、「マトリックス」ではアヤフヤなままにされてしまった部分にまで踏み込むことができたところは、もっと高く評されてもいいところであると思う。

また、絵柄は確かにヘチョいし、一枚画として考えたら長谷川裕一より上手い人は(同人レベルということで考えたとしても)ゴマンもゴヒャクマンもいることと思う。しかし、長谷川裕一は一枚画を描く人ではなく、あくまで漫画家であるということを忘れてはならないだろう。デッサンが狂っていたり、キャラの顔が誰が誰だか見分けがつかなくっていたり、1コマでの描き込みが多すぎて、情報の整理という配慮が全くなかったりと、確かに欠点も多い。だが、戦闘シーンにおけるコマの配置や構図の取り方、空間処理の上手さには特筆すべきものがある。

ま、そこまでムズいことを考えなくっても、ちょっと懐かしくって、ロリで、おバカなスペオペものとして楽しんでもいいだろう。「マップス」は、大友克洋とか松本大洋みたいな「名作」では決してなく、よくあるありふれた、ちょっと時間を潰してくれるだけの「佳作」であり、「消費物」に過ぎない。だけど、だからこそ大事に読んでいく必要があると私は思う。個人の読書体験の豊かさや、漫画界全体のクオリティは、こうした作品がいかに多くあるかによって決定されるものであると考えるからである。