ケーキ ケーキ ケーキ 萩尾望都[manga]

oippu2005-03-21

ケーキケーキケーキ (白泉社文庫)

ケーキケーキケーキ (白泉社文庫)

お菓子大好き少女カナが、お菓子の本場パリで本格的お菓子職人になるため孤軍奮闘する物語………と聞くと、まるで萩尾望都らしくないキラキラでベッタベタな少女マンガ的設定である。それもそのはず、この作品には原作者が別におり、萩尾は「絵描き担当」としてこの作品に参加しているに過ぎない。自分の資質とは異なる甘ったるい原作を描かされたのが相当にストレスだったのか、作品のそこかしこ(街並みの看板や、カナの母親が読んでいる雑誌など)に原作者の恨み辛みが書き連ねられているのが、ちょっと怖い。

「つまらんはなしだ つまらんはなしだ きいてあきれる きかなきゃあきれぬ つまらんはなしだ かわいそうに!」
「KOKORO NO TOBIRA GA "KANDOU" DE HIRAKARETE IRUTOKORO. KONNA TOKOMADE "SETUMEI" SASERU KINANO?!」
「SYOUZYO MANGA WA KOLEDE IINOKA
NO!
 YARANEBA NARANAI KOTO GA ARUHAZU………SOREWA?………」

どうよ、この恨み辛みっぷり?
もっとも萩尾先生が黙って原作者の言うことを聞くようなタマであるはずもなく、ラストの部分は原作者の意図と大きく変えたようである。(ラストではコンクールで優勝こそできなかったものの、各審査員がカナのもとに集まり、自分の店で修行をしてくれるよう申し出る。だが、カナは自分の師匠ルイおじさんの店に留まり、一度は落ちぶれた店を再興しようと決意するところで、物語の幕が閉じる)

だが、「ケーキ ケーキ ケーキ」は作者が思ったような駄作では決してなかった。隠れた名作としてマンガファンの間で現在にまで語り継がれる作品であるというばかりでなく、ある少女マンガの名作を産み出すヒントとなったのだから。
味に関しては天才的な少女、だけど料理の腕はからっきし、そんな少女が厳しい師匠の元で一流の料理人目指して頑張る話………この設定、どこかで聞き覚えはないだろうか? そう、これは槇村さとるおいしい関係」の設定と酷似しているのだ。槇村さとるが「おいしい関係」のアイデアを出すために「ケーキケーキケーキ」をヒントにしたのは、想像に難くないだろう。
他にも、頭身が低く丸っこい描線で描かれたキャラが手塚治虫に対するリスペクトを感じさせたり、一緒に掲載されている「オーマイ ケセィラ セラ」のプロットが大島弓子の作風を彷彿とさせたりと、本作品はマンガファン的にいろんな角度から楽しめる作りとなっている。