柴犬−森田まさのり短編集−[manga]

oippu2005-08-23


柴犬 森田まさのり短編集 (ヤングジャンプコミックス)

柴犬 森田まさのり短編集 (ヤングジャンプコミックス)

小林まことの影響が色濃く窺えるデフォルメされたマンガ的表情のつけ方やマンガ的ポーズ、そして、陰影のはっきりとしたリアルなタッチで描かれる劇画的表情のつけ方という、全く両極端の画が、見事に共存している。つまり、「マンガ的」な描き方も、「劇画的」な描き方も自由自在にできる、ということである。その意味で、森田まさのりは非常に貴重な存在と言えるだろう。
別に1冊のマンガの中で「劇画タッチ」の絵と「マンガタッチ」の絵が並存することは、珍しいことでも何でもない。だが、たった1枚の絵の中に劇画とマンガ、両方の質感・タッチを兼ね備えさせることのできる漫画家はそうそういないのではなかろうか。

また、森田まさのりは自分の特質をよく分かっており、表情のつけ方、ちょっとした仕草の描写に力を入れ、登場人物たちをちゃんと芝居させている。特に「目線」の芝居は、しばしば物語の中心にかかわってくる。「柴犬」で言えば、漫才コンビが目の配せ合うところがそれに該当するし、また「砂-SABAKU-漠」で言えば、レフェリーがボクサーの目を見て相手がまだ闘志を持っているのか確認するところがそうだ。両者ともに、キャラクターの芝居がきちんと表現されていなかったら、物語そのものが完全に意味を失ってしまい、その意味で「目線の芝居で、物語を語る」という氏の行為は大きな危険を孕んでいると言えるだろう。

だが、森田まさのりは逃げない。リスクの高い「芝居演出」に敢えて踏み込んでいく。だからこそ、彼の作品は素朴で、時々、単純に過ぎるように思われながらも、ぐいっと引き込まれるようなシリアスな説得力を持っている。このシリアスな説得力とは、すなわちマンガに登場する役者たちの表情の説得力であり、また芝居の説得力であるのだ。

少年ジャンプという人気誌の、所謂「ツッパリ」マンガ「ろくでなしブルース」のヒットのせいもあり、森田氏のマンガは「BE-BOP HIGH SCHOOL」や「工業哀歌バレーボーイズ」のようにDQN御用達のクソマンと思われている向きがあるかもしれない。だが、彼の持つファンキーな部分だけでなく(それはそれで、非常に魅力的ではあるのだが)、シリアスな部分ももうそろそろ認められて然るべきではなかろうか。