「なつのロケット」 あさりよしとお

oippu2005-08-24


なつのロケット (Jets comics)

なつのロケット (Jets comics)

日本で最も過小評価されている漫画家の描いた、渾身の少年科学マンガ。2頭身のかわいらしいキャラ造形と、あっさりとした語り口であるため、「読みやすい」とは思われるだろうが、「凄い」や「名作」といった評価はなかなかされにくい。世の人が思う「名作」とは、たいていの場合「深みのあるキャラ造形」と「勿体ぶった語り口」を持った作品となるからだ。だが、浦沢直樹のような作品だけを「名作」と呼ぶのは、あまりに一義的な見方であろう。

本作の凄まじいところは、「可愛らしさ」と「軽さ」が作品の基本タッチにありながら、その実、作品の根幹となる部分が「本格科学小説」であり、「青春の蹉跌」であり、また、細部まで見事に構築された複雑な物語であるという点である。「子供たちが夏休みの課題としてロケットを上げる」という、いわゆる「軽ぅい夢物語」でありながら、それを科学的観点からも、またリアルな少年ドラマ的観点からも、全くウソんこなしに描写しようとするところに、あさりよしとお氏の漫画家としての志の高さが分かる。そして凄いのは、実際にその描写が「できている」という点なのである。(現職の宇宙エンジニアが行ったシミュレーションを元に、本作は作られている。ちなみに、巻末はエンジニア=野田篤史氏の解説、というか作品の補助的説明がついている)

また、コマの構成もたいへん巧い。特に奇をてらったことをしている訳ではないが、コマとコマの流れが非常にスムーズで、無駄がない。それがゆえに、マンガ全体として見た場合に「引っかかりがない」ところもある。それを美点と見るか、欠点と見るかは、なかなかに判断の難しいところであり、その点では実際の実力より低い評価をされているのは仕方ないかと思える部分もある。ただ、コマ構成の巧さゆえに「読みやすい」ということが仇となって、評価を落としている部分があるというのは、ファンとしては納得がいかない部分である。だが、「読みやすさ」に流されずに、じっくりと読み込めば、本作品の持つ濃度の高さに気付かされるはずである。